好きなキャラと好きな俳優が同じ板の上に立つ

  

 「七尾太一役:赤澤遼太郎」わたしはこの瞬間呆然とした。その後の、推しである月岡紬役はぼんやりとしか頭に入ってこなくて、「ああ、荒牧くんが紬。」と、ひどくあっさりとしたものだった。これがエーステ秋冬キャスト発表時の気持ちだった。

なんでこんな気持ちなのか。自分でも自分が不思議で、素直に喜べない、嬉しいと思えない自分に腹が立ったし悲しくもなった。帰りの車ではプレイリストの中の春夏秋冬ブルーミングが流れていて、運転しながら泣きそうになって、結局泣いた。事故らなくてよかったと思う。ただひとつ分かっていたこと、この気持ちは紬を思ってじゃない。遼太郎くんを思っての気持ちだった。この時のわたしは紬のことが頭から抜け落ちていた。

 

わたしの推しは、月岡紬で紬は人生で初めて推しと呼んだキャラだった。エースリーとの出会いは事前登録時まで遡る。それまでは、ソシャゲの楽しさも、課金をする気持ちも、正直分からなかった。好きなアニメや漫画もあったが、グッズを買うことは一度もなかった。そんなわたしが楽しいとはまって、課金をし、グッズも買うようになった。今のわたしを作ったのは間違いなくエースリーだ。情が湧いていると言われれば否定はできないし、実際そうだと思う。思い入れが強すぎる。それでも仮に、もし、監督を辞めることがあっても、紬はわたしの推しだったということは生涯忘れないし、ずっとだいすきなキャラクターだ。夢を諦めることができなかった紬、自分の芝居を見失いそうになった紬、また板の上にもどってきた紬、月岡紬のすべてが愛しかった。だからこそ、舞台化には不安も期待もあって、キャスト発表にはずっとどきどきしていたし、わたしなんかが言うことじゃないけど、受け入れられるかなあ、なんて冗談半分で話していた。もう一度言うけど、紬は、わたしが人生で初めて推しと呼んだキャラだ。そして2.5次元に、3次元に現れる。こんな体験は初めてで、エースリーはわたしの初めてをことごとくかっさらっていく。

 

一方わたしは俳優赤澤遼太郎くんのファンでもある。遼太郎くんを知ったのはあんステTSFだった。2.5次元といわれる舞台を見たのはこれが人生で初めてで、なぜそれまで見たことがなかったのか、ただ単純に興味がなかったから。好きも嫌いもない。やんわりと、2次元と3次元は別物とも思っていた。完結編だし、最後だし、チケット取れたし、軽い気持ちで見た。言い方が悪くなってしまうけど、ノリで見に行ったのがこのざまだ。自分でも本当にチョロイと思う。2月5日、遼太郎くんを知った。キャラと俳優をリンクさせた瞬間だった。(ここであんスタの話しを出してしまうのは少し躊躇うけど、遼太郎くんのことを話すにはあんスタがどうしても必要なので、話します。)エースリーをやっていてソシャゲの楽しさを知ったわたしは、後にあんスタを始める。あんスタはそのとき既に2周年をむかえていて、ストーリーを追っていくのがメインだった。読み応えのあるストーリーに夢中になり、感情をかき乱された。その中でアンデッド、そして晃牙を好きになっていった。あんステ直後は、晃牙が好きだから、晃牙役の遼太郎くんを見るのは当たり前で、気になるのも当たり前だと思った。でもその後も赤澤遼太郎から目が離せなかった。1月11日の誕生日に1st写真集が発売されたのを知って、直筆サイン入りを購入していた。そして役じゃない姿を意識し始めた。別の舞台で主演を務める遼太郎くんをわたしは見に行った。大神晃牙役赤澤遼太郎ではなく、俳優赤澤遼太郎をその時初めて見た。この瞬間、俳優として、遼太郎くんを応援したいと思った。遼太郎くんを知れば知るほど、わたしは魅了されていった。DVD発売イベントにも行った。図々しくもツーショチェキを撮り、握手をして会話をした。その日は自分の誕生日も近かったので、おめでとうと言ってもらえた。嬉しかった、本当に。遼太郎くんを知れてよかった、好きになれてよかった、ファンでよかった、そしてこれからも応援していこう、そう心から思った。

 

好きなキャラと好きな俳優が同じ板の上に立つということ、紬は荒牧くんで、遼太郎くんは太一だ。かといって紬を遼太郎くんが演じるのは違うし、そうしてほしいとも思っていない。遼太郎くんが太一を演じるから太一を推しにすることはないだろうし、太一にも太一を好きな人にも失礼な話しだと思う。そして、紬を演じるから荒牧くんのファンになることも、ないと思う。わたしは紬が好きで、遼太郎くんが好きだから。これが事実だから。(ここで言っている推すとファンの意味は、自主的にはグッズを買ったり写真集買ったりイベントに行ったりはしないだろうという意味です。決して好き嫌いの話ではありません。むしろ太一も荒牧くんも好きです。ストーリーも読むし、ブログも読む。かわいいとかかっこいいという感情も抱く。こんだけ言っといて感はありますが、ふつうに好きです。ふつうってなんか失礼... うん、好きです。)

 

キャスト発表から数日経ち、落ち着いてきてはいて、少なくとも発表直後の不安定な気持ちは、こうして書くことによって緩和されているところもある。

今冷静になって思うこと。正直、遼太郎くんが演じる七尾太一がわたしには想像できた。合っているとさえ思った。それと同じく、荒牧くんが演じる月岡紬も、わたしは違うと思わない。むしろ楽しみと思う自分もいる。だってあの荒牧くんが紬を演じる... 見てみたい。純粋にそう思う。

 

ここまで書いてなんだけど、なんだかもう自分が何を言っているかわからなくなってきた。矛盾にもほどがある。苦しい。

 

でも、このもやもやした気持ちの正体のひとつは、好きなキャラ=好きな俳優にならないことに戸惑っている。なんだと思う。紬が好きで遼太郎くんが好きな自分。SNSに太一として現れる遼太郎くんを、舞台に立つ遼太郎くんを、どう見るんだろう。

 

もしも、もしも荒牧くん演じる月岡紬と遼太郎くん演じる七尾太一が、目の前に現れたら、わたしはどうするんだろう。

わたしにも、分からない。分からないから、怖い。まだ見ぬエーステ秋冬に、わたしは溺れかけている。(すでに溺れているのかも。)